素時

こんにちは。


高槻市にある、民藝の器、暮らしの道具、食

に関する古書のセレクトショップ、お味噌や

発酵食品中心のカフェ、テマヒマ

プロデューサー,バイヤーの太田 準です。


山下達郎さんの若かりし頃の好きなエピソードの一つで、シュガーベイブを解散し、バンドからソロになって、アルバムを作るのに一流ミュージシャンを呼んでレコーディングするとギャラが高く採算が合わず、ライブハウスだったら比較的安く出演してもらえたので、ライブアルバムを出すことに。そうして出来上がった「IT'S A POPPIN' TIME」は演奏時間が長く2枚組となってしまい、レコード会社から「売りにくい」とさらに文句を・言われたという話がなんだか好きなのですが、


クルミドコーヒー、胡桃堂喫茶店代表・影山知明さんの新著「ゆっくり、いそげ2~大きなシステムと小さなファンタジー」(クルミド出版)は、ご本人が「今の自分に出せるありったけはここに注ぎ込んだつもりでいます。」というだけあって想いがこもって?想いが溢れて?総ページがなんと475ページ。テマヒマの初期からウォッチして頂いてる方はご存知の通り、前著「ゆっくり、いそげ」がテマヒマを起業するきっかけでは無かったものの、それを強力に後押ししてくれた一冊だった為、査読版「続・ゆっくり、いそげ」をお取り扱いさせて頂くことになりました。2019年のこと。当時書籍は雑誌民藝を除けば(食に関する)古書のみの扱いで新刊書は初。まとまった数の本を販売するのも初めてでした。影山さんご本人がテマヒマにふらっとお立ち寄り下さるということもありました。振り返ってみるとその査読版は何度も追加を重ね気が付いたら結構な冊数をお届けしていました。その査読版に対して多くのフィードバック・レスポンスがあり、新たに2倍分量の書下ろしが加わったのが今回の新著。本の分厚さにひるむ方が多くて(「売りにくい」)、テマヒマではその査読版の時の販売の勢いはありませんが、(横に置いてた前著ゆっくり、いそげは完売・・)気長に、丁寧にお届けしたいと思います。


そんなボリュームですので僕も読み終わるのに少し時間がかかって、冬休みに入って2回目を読んでいるところ。テマヒマブログでご紹介するにあたってどこにフォーカスしようかと迷ってるうちに年を越してしまいました。


「リザルトパラダイム」

成果(リザルト)を最初に定義してそこへと最短距離で辿りつこうとうとするやり方。影山さんがこの本で「大きなシステム」と呼んでいるように効率や生産性が求められる現在の社会ではそれが当たり前になっています。図で描くと△ピラミッド状になる。それに対して

「プロセスパラダイム」

成果を事前に定義せず、一人一人の存在、一つ一つの仕事、関係性、偶発性、縁といった過程を大事にし、その行きつく先はオープンに考える。▽な社会を考えられないだろうか?という提案この本を通しての提案となっています(まえがきより引用・抜粋・編集)


実際、「リザルトパラダイム」の行き詰まりがあったり、その生き辛さがあったりはあって、でも分断を煽るような二項対立的に、「リザルトパラダイム」VS「プロセスパラダイム」というよりは、おそらくリザルトパラダイム一辺倒になりがちになっている現在、プロセスパラダイムも、両方のバランスというか、グラデーションというか。


査読版の時のサブタイトルは~植物が育つように、いのちの形をした経済・社会をつくる~でしたが、テマヒマというお店の成長を考えると植物に喩えるととてもしっくりきます。リザルトパラダイム的に、前年比●●%増だったり、〇年後に売上■■万円とか、▲▲店舗達成だったりといった目標を作ったことは無く(目的はある)、お店の変化や成長も、スタッフやお客様、その他の出会いや頂いたお話に拠るもの。影山さんが外資系コンサルやファンドの出身で元々大きなシステム(△)側であったと語ってるように、僕も所謂大手企業出身であって△側にいて、小さな個人店を始めたから▽(小さなファンタジー)に気が付けたということもありますが、成長を前提とした社会の行き詰まり以外にも、コロナ禍を経た心境の変化、年を重ねたことでの心身の変化も多いように思います。今を生きることの大切さというか。


アメリカの社会学者レイ・オルデンバーグは、ファーストプレイス(家)、セカンドプレイス(職場や学校)に対して、第三の居場所(サードプレイス)が必要だと論じていてカフェはそのサードプレイス足り得る場所だとしています。ちなみにスターバックスのコンセプトを語る上で「サードプレイス」という言葉は重要ですが、DXへの巨額の投資でスピードや利便性は高まったがアイデンティティは揺らいでいるという記事(アメリカのスターバックスの話)を最近読みました。影山さんは時間に注目して、ファーストタイム(家庭人としての時間)、セカンドタイム(職業人や学校人としての時間)、サードタイム(自分自身の時間)という区分を書いてらっしゃって、この考え方はテマヒマでも使わせた頂こうと思いました。サードタイムが第三の時間ではなくて、自分自身の時間というのがいいなと。もちろんご家族・ご夫婦での来店、職場の人同士の来店もあり全てが全てあてはまる訳ではないのですが、会社員・パート・主婦・母といった立場や役割をとっぱらった、自分自身の時間、素(す)に戻れる時間を過ごす場所。テマヒマはそういう場所でありたいなと。そう言えば平日のランチタイムの後半の時間帯とか、カフェタイムにお一人でお越しの方とかってそれにあたるのでは?


あとがきの中で、

その証拠に、その辺にある本を取って開いてみると、みんな実は同じようなことを言っている(問題意識の方向性を同じくする本においては、だけれど)

とあるように、僕自身普段お店を営みながら考えていること、民藝や発酵がモノサシにに社会や経済を見ていること、言葉遣いこそ違えど、似たようなこと、共感することがやはり多かったです。ファンタジー(空想や幻想)で終わらせず、社会を変えるとかまで大きなことは思わないけど、周りから少しずつ変わっていく、影響していく、そんな店でありたいなと思います。(もっとも影山さんはファンタジーを想像的な想像力と解釈していますが)


想いをもって小さなお店を営む方、大きな組織から離れようとしている方、社会に生きづらさや矛盾を感じてる方、いや寧ろそうで無い方、皆さんに読んで頂きたい本です。そして是非読み終わった後に語り合いたいです。「ゆっくり、いそげ2~大きなシステムと小さなファンタジー」絶賛発売中です。

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テマヒマ

テマヒマは、大阪府高槻市にある、 民藝の器、暮らしの道具、 食に関する書籍のセレクトショップ、 みそソムリエの作る発酵食品中心のカフェです。 食を通して暮らしの豊かさを提案しています。 「暮らし、味わう」 高槻市にお越しの際は、 築90年の古民家をリノベーションした 隠れ家的空間で、 器や暮らしの道具のお買い物、 ランチ、スイーツをお楽しみ下さい。 Since 2018.10.01