袂分

こんばんは。


高槻市にある、民藝の器、暮らしの道具、食

に関する古書のセレクトショップ、お味噌や

発酵食品中心のカフェ テマヒマ

プロデューサー,バイヤーの太田 準です。


土曜日は、お店を店主とスタッフ2人にお任せして、濱田琢司さんによる講演会「三宅忠一ともう一つの民藝運動の道ー民衆としての生産者」を聴講してきました。大阪日本民芸館の「大阪の民藝運動ー三宅忠一の眼ー」展に関連したもので、講演会の前に2度目となりますが展示も拝見しました。


3月に拝見した際、SNSにはこのような感想を投稿していました。

”大阪日本民芸館の春季特別展「大阪の民藝運動ー三宅忠一の眼ー」を観に行って来ました。サブタイトルに関西•大阪万博開催記念とあるように?大阪日本民芸館は元々は1970年の大阪万博EXPO’70のパビリオン日本民藝館。三宅忠一が立ち上げた日本民藝協団/日本工芸館(休館中)所蔵品を第一展示室で、第二室はそんな三宅忠一が批判的だった民藝作家のものを中心とした展示。小鹿田焼などの大皿は蕎麦猪口展とは違いあの広い第一展示室にピッタリで素晴らしかったし、第二室も含めここ最近の展示の中では一番量的にも質的にも良かったです。民藝運動の方向性をめぐって袂を別ったが蒐集品からはその違いは無く(おそらく櫛描の細かく入った小鹿田の大皿が 1階にも2階にも展示していたのはそれを意図して?)三宅忠一が問題視した作家のこと、価格のことなども2025年の今であれば話し合えるのでは?と個人的には思います。"


濱田琢司さんのお話は、三宅忠一の足跡を辿り、その思想や活動から、作家の問題、価格の問題など民藝運動が当初から抱えていた矛盾(と指摘されがちなこと)が浮かび上がります。この批判が民藝運動の外からではなく内部から起こったことが意味深く、琢司さんによると三宅の提言より前、戦前からその萌芽はあったようです。


民藝運動は多様な側面があってそれが魅力でだからこそ100年以上続いたと思うのですが、

・民藝が柳により発見される前後での価値転換

・貴族的vs民衆的 →都市vs地方 への視点の変化

・民藝を取り入れた創作と民藝による生活美化という二面性

ということは琢司さんが様々なところで書いてらっしゃって、特に3点目は昨年テマヒマで濱田庄司お話会をした際に琢司さんが仰っていて興味深く思っていました。河井寛次郎、濱田庄司らは民藝を吸収することで自らの創作していたのに対し、富本憲吉は民藝による生活美化に力点があり、量産陶器の試みもそうだったかと思います。三宅もまたそう考えていたのでしょう。


三宅の思想の根底には、おそらく「金光教」の「民衆救済」の考え方があり、廉価なものによる生活美化はその延長にあったと琢司さんは仰っていました。また救済すべき民衆が、消費者から生産者(職人)へと移っていき、小石原などへの大量発注にもつながっているという指摘はなるほどと思います。スエヒロの経営という事業家の顔もあったでしょうか。鳥取民藝の吉田璋也も、自らディレクションした新作民藝を作ってもらい、たくみ工藝店で販売することをしていた訳なので似てるようですが、民藝作家(と呼ばれる人たち)による産地指導にも批判的だった三宅とはどうだったのでしょうね。ともに「工藝の道」を読んで以降に運動に参加した人達だったでしょうし。そう言えば「しゃぶしゃぶ」って、食べ方は吉田璋也が考案し(中国から持ち込み)、十二段家で提供されるようになり、三宅忠一が名付けた、だったと思うのですがそのへんの関係性が気になってきました。


袂を分かった三宅忠一と柳宗悦ですが、前述の通り、蒐集しているモノの方向性は基本的に同じで、逆に言うと三宅が新しいコンセプトがある訳ではない分、柳ほどの卓越した観る目がない限り劣化コピー的になってしまいます。琢司さんも引用していた三宅忠一評

「つねに消費者を大衆に求め、閉鎖的では無く解放的であり、少数の鑑識者によるきびしい選択よりも次善であろうと構わないから、1人でも多くの人々を民藝の世界に結縁させようとする」

ということから、もしかしたら三宅も意識的だったのかもしれませんし、広げる、広めるという意味では重要な視点で、それは薄まる、浅くなる危険性と諸刃の剣のように思います。


三宅忠一の存在からかえって、民藝(運動)というものが浮かび上がってくる、いい講演会でした。琢司さんありがとうございました!


さて、琢司さんは、益子の濱田庄司のお孫さん。その濱田庄司時代からの職人、先月初旬、高根澤光子さん(愛称みっちゃん)が急逝された際、有名になった無名の工人ということでブログを書きました。

それに対して、濱田雅子さん(琢司さんの兄で現濱田窯当主の友緒さんの奥様)からコメントを頂きました。

「濱田庄司は職人をいつも称えていて、皆さんに紹介していました。民藝館にある濱田窯の物も職人の名をわざわざ記し所蔵してあります。有名だけれど、無名。誰が作ったか分からないくらい自然に生まれたような器。濱田が目指したところです。職人たちが自然と生み出しているのですね。みっちゃんも然りです。」


「無名」性という言葉が、誰が作ったか分からないくらい自然に生まれたような、と表現することでグッと解像度が上がり、現代性も帯びてきます。庄司が職人さんを紹介していたという話も、所蔵品に職人の名前を書いていたという話も、職人さんへのリスペクトがあっていい話ですね。ちなみに友緒さんはよく職人さんの様子をインスタにアップされていますが、それもツールは違えど継承されている気がします。


三宅の提起した作家の問題も、2025年の今となっては、窯の職人さんを除くと、ほとんどが作家と言ってもよく、有名な(名前で売れる、人が集まる)作り手もいらっしゃって、この時代「無名」であることは難しいですが、ただ名を挙げようとするのではなく、職人的に「無名性」を持つことが出来るのではないかな?と思います。


最近、「民藝」の器や暮らしの道具を販売する店でありつつ、「民藝」”的”なお店って何だろう?とよく考えています。「今は何を買うかよりも誰から買うかが大事な時代」ということをブログでも書きましたし、そう思ってもいますが、「無名」な店では困ってしまいますが、無名「性」のあるお店はあり得るんじゃないかな?と思ったりもします。最後のパラグラフは蛇足でしたが。


テマヒマは昨日今日火曜日水曜日で定休日です。明日11時オープンで皆様のお越しをお待ちしております。ランチのご予約は0組ですのでご予約無しでもお席ご案内出来るかと思います。


それでは明日も好いモノ、好いコト、好いトキをテマヒマで。

今日も好い一日を!












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テマヒマ

テマヒマは、大阪府高槻市にある、 民藝の器、暮らしの道具、 食に関する古書のセレクトショップ、 みそソムリエの作る発酵食品中心のカフェです。 ヴィーガン対応、ロースイーツもあります。 食に関するワークショップも随時開催中! 築90年の古民家をリノベーションした 隠れ家的空間で、お買い物、ランチ、スイーツをお楽しみ下さい。 Since 2018.10.01 哲学カフェはじめました。